第二章 宴会公用車事件

 幽霊運転手事件では、テレビ局の調査・追及のやり方・考え方がとても勉強になった。また、これをきっかけに、様々なことが分かり始めた。その一つがこれである。

 幽霊運転手事件の調査の真っただ中の八月二〇日、労組の委員長の動きを追跡していたところ、京都府のとある料亭へ入っていく姿が確認できた。何かあるのかと待ち構えていると、高槻市役所の管理職と労働組合の幹部らが次々と集結し始めた。

 ほどんどの職員はJRを利用してきたが、山本管理者や当時の二名の副市長、教育長は、運転手が運転する黒塗りの公用車で乗り付けた。

 そして、ミニスカートをはいた派手な服装の女性コンパニオン二名が料亭に到着。後に確認したところでは、宴会では酒が飲まれ、このコンパニオンらも同席していたとのこと。

 蚊に刺されながら数時間、幹部らが出てくるのを待つ。すると、労使仲良く酒を酌み交わしていた高槻市職員らが宴会を終えて店外へ。人事担当の幹部らは何やら楽しげに女性コンパニオンと話した後、車を運転して帰る彼女らを見送っていた。副市長らはタクシーで帰っていった。

 別に酒宴を楽しむのはよい。しかし、京都の料亭へ行くために、公用車や、市職員である運転手を残業させてもよいのか。

 その年の一二月、私は議会でこの件を取り上げた。「この料亭で行われた宴会は、公務だったのか、それとも私用だったのか?」と質問した。

 山本管理者は「公務の一環」だったと明言した。

 公務にしてはおかしい。参加者は高槻市職員だけなのに、何故京都なのか。何故料亭なのか。何故女性コンパニオンが必要なのか。本当は労使癒着の単なる私的な酒宴ではないのか。私的な酒宴なのに、運転手を残業させ、公用車を使ったことがばれたので、公務と言い張っているだけなのではないのか。

 もしこれが公務として認められるなら、今後、高槻市職員のあらゆる宴会が公務となる。運転手付きの公用車が、京都などへの遠征にも、際限なく使用されることになる。

 議会で追及しても、高槻市役所の幹部らは開き直るばかり。そこで住民監査請求を行ったが、市役所側の主張を鵜呑みにしたような結果だった。ただ、住民監査の資料を見ると、毎回、副市長や自動車運送事業管理者、水道事業管理者、教育長、総務部長といった幹部が出席していたとある。

 そういえば、代表監査委員は、前述のとおり、前職は自動車運送事業管理者で、その前は総務部長だった。もしかすると、近年は、毎回料亭宴会に出席していたのではないか。監査委員事務局に電話し確認すると、やはり彼は、自動車運送事業管理者や総務部長の時代に、料亭宴会に毎回のように出席しており、その際、「お前も乗っていけや」と他の職員に誘われ、公用車に乗っていったこともあったという。

 この件について、平成二〇年一一月四日に住民訴訟を提訴し、証人尋問では代表監査委員を呼び出した。すると彼は、宴会は私的な会合であり、過去にも公用車を使用したことを認めた。ただ、具体的な時期や回数は明らかでないと証言したために、私が目撃した宴会以外については、裁判所も証拠がないと認めなかった。

 平成二二年一〇月一四日、大阪地方裁判所で勝訴。地裁判決は「平成一九年会合は当初から酒席の形で開催されたものと認められ、そのような席において、具体的な資料もないまま、人員削減も含めた行政改革について実質的な意見交換がされるか疑わしいし、それが公務又は公務に関連するものというのであれば、酒類の提供を受けながら行うのは手段・方法として著しく不適切なものといわざるを得ない。」「会費も一人当たり一万円と比較的高額であるところ、このような日本料理店で意見交換を行う必要性も明らかでない。」「一般の社会通念を基準として、当該会合が地方公共団体の職務遂行に伴うものと認めることはできない。」「当該会合に出席するために公用車を使用することは、高槻市に対する不法行為となる。」とし、運転手の残業代とガソリン代を高槻市の損害として認め、副市長ら四人が連帯して賠償するよう命じた。

 一方で、高槻市役所は、公用車の使用記録をより曖昧にし、誰が何のために公用車を使用したのか分からないように改悪してしまった。公用車の「運転日誌」や運転手の残業の実施状況を記録する「時間外等勤務実施簿」には、それぞれ「市長用件」「副市長用件(助役用件)」「秘書課用件」というように区別された記載がされていたのだが、「副市長用件」も「秘書課用件」と書くようになったのだ。これでは、この記録を情報公開請求しても、副市長が乗っていたのか、秘書課の職員が乗っていたのか、分からない。副市長の宴会出席が問題にされたので、このようにしたのであろう。

 一般的には、行政というのは、「不透明だ」と問題を指摘されれば、情報の公開度を高めたり、公文書に詳細をより具体的に記載したりするものではないかと思うが、高槻市役所はその真逆をやったのである。

 残念ながら、住民訴訟のほうは、大阪高等裁判所で逆転敗訴。高裁は「このような会合が意見交換等のためにどの程度有用なのかは疑問の余地はなくはない」等としながら、「違法とまではいえない」というのである。明らかに不当判決であるが、これだけ常識的におかしなことでも住民訴訟では負けてしまう。裁判で行政に勝つのは難しいのだ。

 私は最高裁に上告したが、上告棄却・上告不受理。つまり負けてしまった。最高裁で逆転するのは極めて稀なケースである。日本は三審制だ、とはいっても、高裁で勝てなければ、ほぼ負けは間違いない。

 住民訴訟では、違法なもの、つまり法律や条例に反するものしか対象とならない。住民監査請求では、違法でなくとも不当(妥当ではないこと・道理に合わないこと)であれば対象となるが、監査委員が頼りにならないのは前述のとおり。行政の違法不当な行為は、本来、議会で止めるべきものであるが、議会の意思は議員の多数決で決定される以上、議員が不見識であったり、利害が絡んだりすれば、その理想は実現されない。それが残念ながら現実だ。

 市職員同士の酒宴に公用車が使用され、職員が残業させられても、議会が問題視せず、裁判にも負けたのだから、もはや打つ手は何もない。情報公開請求しても、不透明にされたので、現在どのように公用車を使用しているのかも分からない。

 市長が市民感覚をもった人間に替わらない限り、こうしたことを改善させられないだろう。

 もしかすると、高槻市の公用車は、今でもこうした不適切な使用がされているかもしれない。

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