第七章 連合高槻不正入居事件

◆「厚生会館」に事務所を構えていた連合高槻

 以上のとおり、時には給与や待遇で、時には補助金で、時には後援や賞状で、自民・民主・公明・共産の支持団体に利益供与・便宜供与をしてきた高槻市役所だが、他のやり方も。市の所有する土地や建物を無償で使用させるという手だ。

 これまでいくつかそういった事例があったが、最初にこうした問題に取り組んだきっかけは、ムーブ!のKディレクターだった。

 Kディレクターは、交通部の労組の委員長が、「連合高槻」主催のゴルフコンペに、例の違法な「代走」で参加したことについて取材するため「連合高槻」を訪れた。

 「連合高槻」は、自治労系労組の上部組織「連合」の高槻支部。公務員の労働組合だけではなく、民間企業の労働組合も加盟している。正式名称は「連合大阪 北大阪地域協 北摂地区協議会高槻地区連絡会」という長い名称だ。

 Kディレクターは、高槻市に来たついでに、私と「幽霊運転手」の関係書類などの受け渡しをしたい、連合高槻の事務所のある「厚生会館」に来てほしいと言う。しかし私は議員のくせに、「厚生会館」の場所が分からない。仕方なく、市役所で市職員に地図で場所を教えてもらった。

 「厚生会館」は、高槻市が所有する建物ではあるが、多くの高槻市民にとってなじみがない。何故なら、高槻市職員専用の福利厚生施設であり、一般の市民は利用できないことになっているからだ(現在は違っている)。

 当時、市は、年間約八二一万円で「高槻市職員厚生会」に管理運営業務を委託していた。

 「高槻市職員厚生会」は、地方公務員法の趣旨に基づき、設立された団体とのこと。地方公務員法にはこのような規定がある。

第四十二条  地方公共団体は、職員の保健、元気回復その他厚生に関する事項について計画を樹立し、これを実施しなければならない。

 この福利厚生の計画の実施のために厚生会があるわけだ。高槻市職員厚生会規約によれば、「会員の相互共済及び福利増進並びにその他の福利厚生事業の実施」を目的としているという。要は市職員の互助会である。

 厚生会の会長は副市長が務めている。役員は労使の幹部らで、市の正規職員のすべてが会員となっている。

 この厚生会が、市職員の福利厚生のための建物である厚生会館を管理するのは理解できる。しかし、どういうわけか、この厚生会館に、連合高槻が事務所を構えていたのだ。

 何故か。担当の人事課の職員に、どのような契約や許可があるのかと尋ねてみると、厚生会は、連合高槻に対して、厚生会館の一部の管理運営業務を「再委託」しているのだという。

 普通、業務委託となれば、委託料が発生する。しかし、厚生会から連合高槻に委託料は支払われていない。

 連合高槻が「再委託」されている部分は、厚生会館一階の事務室・小会議室・資料室と三階の大きな集会室の計四部屋。「市職員の福利厚生」のみを目的とする厚生会館の管理運営業務を再委託されていたのだから、連合高槻は、業務として、ここもその目的のために運営しなければならない。

 ところが、担当職員に訊くと、驚くことに、連合高槻は、市職員の福利厚生については、何もしていないと言う。再委託されているはずの管理業務を何もしていなかったのだ。

 つまり、虚偽といってもいい契約に基づいて、実質的に家賃〇円で事務所を構えているということになる。

 それどころか、連合高槻に再委託されている四部屋は、厚生会の会員である市職員は使えないことになっていた。

 厚生会では、会員に「えらべる倶楽部 生活・休日百科 福利厚生ガイド」という冊子を配布しているが、厚生会館を紹介しているページには、「ご利用いただける部屋」の中から四部屋が除かれていた。

 市職員の福利厚生のために連合高槻に再委託されているはずの部屋を、厚生会の会員である市の職員は、福利厚生のためには使えない。それを厚生会自らが会員に対してパンフレットで堂々と説明している。こんな会員を馬鹿にしたような話があるか。

 しかし、市の担当職員はあくまで「再委託」だと言い切った。「高槻市職員厚生会館管理規則」第二条の三項に、「厚生会の会長は、市長の承認を得て、会館の一部の管理運営を再委託することができる。」とあり、厚生会館の使用方法も含めて市長の承認を得ているだと。

 連合高槻は厚生会館で実際には何をしていたのか。

 ある資料によると、連合高槻が再委託されていた会議室や集会室では、以下のようなことが行われていたとのことである(すべて平成一八年度)。

四月 三日 連合高槻メーデー実行委員会

四月一二日 連合高槻役員幹事会

四月一七日 連合高槻メーデー実行委員会

四月二五日 連合高槻メーデー実行委員会

五月一六日 連合高槻訪中団結成会議

五月二二日 (高槻島本)平和連帯会議定期総会

五月三〇日 連合北摂役員幹事会

七月一八日 連合高槻役員会

七月二七日 市労連定期大会

七月二八日 連合高槻役員会

八月 一日 連合高槻役員会

九月二二日 連合北摂役員会

一二月 四日 連合北摂地区地域協定期総会

一二月二二日 連合高槻事務局会議

一月一五日 高槻市学指労組旗開き

一月一七日 連合高槻役員幹事会

・・・本来の「市職員の福利厚生」という目的から外れて、民間企業の労組の役員、さらには「連合北摂」加盟の市外の民間企業労組役員にも頻繁に使用されていた実態があったのだ。

 つまり、実際は、「再委託」などではなく、連合高槻やその関係団体が、単に自分たちの事務所や会議室として勝手放題に使っていただけなのである。高槻市や厚生会は、連合高槻にタダで厚生会館を使わせるために「再委託」を装っていたのだ。公有財産の私物化・詐欺的な使用が長年にわたって行われてきたといえる。

 Kディレクターに調査内容を告げると、ムーブ!として早速取材開始。「高槻市と連合高槻との奇妙な関係」のタイトルで、平成一九年一一月二七日に放送された。

 キャスター「ムーブ!がスクープした高槻市バスの問題。

 (バスで休憩中にムーブ!の突撃取材を受ける労働組合の幹部A)「あきません、そんなんもう、ちょっとここじゃ困ります。やめてください。そんなことやめてください。」

 自分がバスを運転したことにしながら、「連合高槻」の訪中団に参加していた「幽霊運転手」。

 (ムーブ!のインタビューに答える労働組合の高橋委員長)「それについては、今のところ、ノーコメントということで・・・」

 ムーブ!の取材から逃げ回る交通労働組合の委員長は、給料をもらって、「連合高槻」主催のゴルフコンペに参加していた。

 不正行為の裏で必ず登場する「連合高槻」とは、いったいどんな組織なのか。ムーブ!が取材を続けたところ、不可思議な事実が判明した。

 継続追及!高槻市問題。市と労働団体との不可解な関係。」

 スタジオでは幽霊運転手事件のおさらいがされる。

 キャスター「こういった不正が見つかる度に出てくる『連合高槻』という団体なんですけれども、じゃあ、ムーブ!がですね、このゴルフコンペについて事実関係を確認しようと『連合高槻』を訪れました。すると、不思議なことが分かったんです。

 それはですね、『高槻市職員厚生会館』という、高槻市がもっている建物の中に、『連合高槻』の事務所があるということなんですね。そもそもこの『連合』というのは、民間企業の労働組合が加盟する労働団体です。選挙では、特定の候補を支援することで知られています。なのに何故、市がもっている建物の中にこの『連合高槻』が入っているのか。高槻市とはどういう関係なのか。追及すると意外なことが分かりました。」

 キャスター「(厚生会館の門前から高槻市役所の庁舎を見ながら)高槻市役所から国道一七一号線をはさんだ反対側、程近くにあるのが、こちらです。高槻市職員厚生会館。入ってみます。」

 厚生会館に入っていくキャスター。連合高槻が再委託されているという四つの部屋の映像と共に、家賃「ゼロ」の訳は、これらの部屋の管理を、連合高槻が厚生会から再委託されているという形をとっているからだという解説が入る。

 キャスターは、三階の大集会室が塵一つなく掃除されていることに感心する。

 キャスター「お掃除とかって、どなたがされているんですか?」

 連合高槻事務局長「ええっと、一応、厚生会館のここの方がやっていただいているというのが・・・」

 Kディレクター「連合高槻さんが、ここの管理を再委託されているのであればですね、掃除も連合高槻さんでされるというのが筋なんじゃないですか?」

 連合高槻事務局長「あ~、ま、そう、そういう考え方ね、はい。まあ、そう、まそう、確かにそうですね、そういう面ではね・・・」

 何故か口ごもる事務局長。どうしてこの建物に、連合高槻がこんなあいまいな契約で入居しているのか。建物を所有する高槻市は・・・

 高槻市総務部人事課長「建物全体の元々の建設目的としたら、そういうことが、福利厚生のための施設という考え方は当時あったと思う。高槻市が行う労働施策として、労働センターをもつというのは施策として元々もっていた。で、今なおあると。その施設の部分に限って言うたら、どこでやるかって、いうたときに、市民会館でもよかったし、厚生会館でも・・・変な言い方ですけど、労働施策はどこでやってもいいんですね。」

 スタジオでは「何言うてんのかよく分からんね」と勝谷誠彦さん。

 上村教授「元々、総評の時代から連合に移っていくんですけど、私、地方都市で連合とか総評の事務所に行きましたけどね、こんなところ使ってなかったですね。狭いところで、でも、それなりの組合としてのプライドみたいなものをもってね、自分達は、政府というか、行政とは距離を置いているんだということを、どっかで、彼らはプライドをもってましたけどね。」

 キャスターが詳しく構図を解説し、厚生会について次のように述べた。

 「実はですね、この厚生会なんですけれども、高槻市の人事課職員が役員を務めているということになりますと、この厚生会と高槻市は、もう一心同体、同じだと見ていいと思うわけですね。」

・・・厚生会はこの事件だけではなく、私が平成二四年に追及した「テニスコート事件」(大阪府所有のテニスコートを高槻市職員らが無料で独占使用していた問題)にも登場した。市職員のみで構成する団体であり、高槻市役所と一心同体といえるのに、任意団体として振る舞うこの団体が、時に市職員の不正の隠れ蓑として利用されているようだ。

 キャスターは、連合高槻に再委託されたエリアの掃除を、何故か再委託した側の厚生会が行っていることの不可思議さも指摘した。

 キャスター「さらに、連合高槻は、政治活動も盛んに行っています。例えば、今年の統一地方選では、奥本高槻市長・五人の市議らを支援して当選させているという形になります。

・・・平成一九年の高槻市長選挙において、連合高槻の代表は、奥本市長の総合選対本部の副本部長であった。

 「一方で、この、高槻の職員厚生会館という建物なんですが、使用規則八条というところに、『政治活動を行わないこと』と書いてあるわけなんですね。にもかかわらず、高槻市自身が、こういう組織を、市の建物の中に居候させているという形になっています。

 キャスター「現職の市長を応援する組織が、市の施設を、基本的にタダで使っている。いかがですか?タダで貸してあげただけじゃなくて、掃除までしてあげてる。」

 勝谷氏「組合員も怒んなきゃいけないですよ。組合って何のためにあるかと言えば、雇っている側から組合の権利を守るためですよね。賃上げ交渉や何かをするために。対立軸がなきゃおかしいわけですよ。それがこんなズブズブの便宜供与を受けているということは、丸め込まれているってことですよ。」

◆補助金不正受給疑惑

 ムーブ!は、連合高槻の補助金不正受給疑惑にも触れた。

キャスター「そして、さらに驚くべきことがあります。

 この連合高槻の活動費なんですが、二〇〇六年度一二三万四〇七二円だということなんですが、ほとんど市の補助金に頼っている。(補助金の額は)一〇九万三五〇〇円だということなんですね。

 一方で、連合大阪からも交付金として一一〇万円が交付されているということなので、これを使えば、補助金は、残り一五万円というところで大丈夫なんだろうと思われるわけなんですが、何故か必要以上の補助金をもらっているという形になっています。

 労働団体の補助金というのは他の団体でも見られることなので、これ自身は別におかしいということではない、百歩譲ってありだとしても、連合高槻には、もうちょっとおかしいところがある。

 それはですね、補助金を受けるということは、市への決算報告が義務付けられているということなんですけれども、それが、組織内部の決算報告と大きく食い違っているというところなんです。」

・・・内部への決算報告と、市への決算報告。両者の最大の食い違いは、翌年度への繰越金である。内部への報告では、繰越金は九六万円となっているが、市への報告では繰越金は〇円。全部使い切った形になっている。どちらが本当なのか。

 両者の決算時期は半年ほどずれているが、福利厚生活動費に計上されている三つのイベント(五月二〇日の山崎ハイキング、六月二四日のボウリング大会、一〇月二九日の自然ふれあいフェスティバル)は、決算の期間が重複している時期にすべて行われている。

 つまり、福利厚生活動費の合計金額に違いがあるということはありえない。

 ところが、内部への報告では一三万円、市への報告では七五万円と、市への報告のほうが、六二万円も多くなっているのだ。

 このことについて、ムーブ!が連合高槻に問い合わせたところ、事務局長は「私が決算報告をまとめたのですが、内部向けの決算が間違っていた」と答えた。つまり、繰越金があるほうが間違っていたと言うのだ。事務局長の弁によれば、内部の金を使い込んでいたということになるが。

 コメンテーターは、呆れたような声で、「決算報告の体を成していない」、「どうやって信用しろというのか」、「現金で管理しているはずがないから、通帳も出せっていう話」、「市議会で是非追及していただきたい。高槻市民の大事な税金が入っているのだから」などと指摘した。

◆住民監査請求と住民訴訟

 放送後の一二月議会で、私はこの問題を追及。住民監査請求も行い、厚生会館の使用について、三月一三日に住民訴訟を提起。大阪地裁では敗訴したものの、大阪高裁は、連合高槻への再委託を承認した高槻市役所の行為は「労働行政の裁量の範囲を逸脱又は濫用したものとして違法」と認定した。

 ただ、厚生会と連合高槻との間の業務委託契約は無効とまでは認められないとし、損害賠償請求権等は認めなかった。高槻市役所が行った連合高槻への再委託の承認は違法だというのだから、市役所が直接、連合高槻と委託契約をしていれば、その場合は損害賠償請求等が認められた可能性が高いと考えられる。

 とするとやはり、こうした形で、「厚生会」などという実質的には市役所と一心同体の組織が、法律的には第三者・任意団体として振る舞い、市長等と利害関係のある団体との間に介在し、公金や不動産に関係するのは大きな問題だ。

 私はこの事件の調査のため、厚生会に対し、連合高槻との再委託の契約書の開示を求めたが、拒否された。厚生会が妙な契約をしていても、未だに実態をつかむことができないのが現実なのである。厚生会等の公務員の任意団体については、外郭団体と同等の情報公開・予算決算の報告を義務付けるような法改正が必要ではないか。

 放送から約四か月後、連合高槻は厚生会館を退去した。

 ところが、高槻市役所は、連合高槻が占有していた部分を、「労働福祉課分室」とする要綱を作成し、以前とほぼ同様に、連合高槻関係の団体に無料で使用させていることが、私の調査で明らかになった。何故そこまで手を変え品を変え、連合高槻を厚遇するのか。連合が、市長や多くの市議の支持団体だからだとしか思えない。

 連合高槻の決算が間違っていた件についても住民監査請求を行った。連合高槻は私が住民監査請求をした翌日に、高槻市に対して、支出合計を約一七五万円とする訂正報告を行った。訂正前は前述のとおり約二二九万円。事務局長は市への決算報告は正しいとしていたが、これも誤っていたのだ。内部向けも、市への報告も、実際とは異なっていたということになる。

 市からの補助金は一〇九万円。連合大阪からの交付金は一一〇万円。つまり収入は合計約二一九万円。支出計は約二二九万円から約一七五万円に変更された。変更後の収支の差額は約四四万円となる。この四四万円の現金は、決算が訂正されるまで、誰がどこに隠していたのだろうか。高槻市を騙したのでなければ、連合大阪から詐取しようとしたことにならないだろうか。

 高槻市役所は、市の補助金の一〇九万円より、連合高槻の支出合計の約一七五万円のほうが大きいから、返還は求めないという。補助金は目的どおりに全部使い切っているから、市に返還させる必要はないということだ。

 本来なら、まず連合大阪からの一一〇万円を支出に充当し、それで足りない分を市からの補助金で充てるべきではないのか。そう考えれば、高槻市役所に四四万円を返還しなければならない。

 けれども、そうさせる法的根拠が見当たらない。補助金は目的どおりの活動で使い切ったとされた以上、住民訴訟をして取り戻すのは困難に思われた。違法で、かつ損害が発生していなければ、住民訴訟の対象にはならないのだ。

 なお、その翌年、市からの補助金は、一〇九万円から二〇万円へと、大幅に減額された。

 我々がこの問題を追及しなければ、連合高槻は、今でも多額の補助金を受け取りながら、無料で厚生会館に事務所を構えていたかもしれない。

目次へ 前章へ戻る 次章へ進む

第七章 連合高槻不正入居事件” に対して2件のコメントがあります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です