第一章 高槻市バス「幽霊運転手」事件

平成19年9月11日放送の朝日放送「ムーブ!」より

◆調査

 私は平成一九年四月の統一地方選挙で高槻市議に初当選。実質的に初めての議会となる六月議会では、勝手が分からないながらも、市長の詐欺公約などについて厳しく追及した。

 そんな私の姿勢を見たからか、七月に、ある人から、高槻市営バスに関する情報がもたらされた。「市バスでは、労働組合の幹部を違法に優遇している。高槻市役所は、労組幹部らの組合活動についても給与を支給している」・・・部外者ではまったく知ることができない情報だった。

 ちなみに、市バス事業は、法的には、地方公営企業法が定める「自動車運送事業」であり、そのトップは「管理者」という名称。高槻市役所で市バスを所管するのは「交通部」。したがって、交通部のトップは、少々長いが「自動車運送事業管理者」となる。管理者は市長が任命する。

 一般職の地方公務員は、地方公務員法三六条により労働組合を結成することはできない。代わりに「職員団体」というものは作ることができる。しかし、市バスの職員らは、同じ公務員でありながら、地方公営企業法により、地方公務員法三六条の適用が除外されており、労働組合が結成できる。そればかりか、政治活動・選挙活動も行うことができるのだ。

多くの市民は全然気付いていないだろうが、市バスの労働組合の幹部らは、市バスを運転するだけでなく、選挙の時には、市長や民主党議員・社民党議員の立候補者の選挙カーの運転をすることもあるのだ。

 こんなふうに選挙で活躍してくれるから優遇したいのかもしれないが、労働組合に対する利益供与は、「不当労働行為」として、労働組合法で原則禁止されている。正当な労使交渉や最小限の事務所の提供などいくつかの例外は認められているが、一般的な組合活動について金銭等を与えるのは違法だ。

 高槻市役所で労組への違法な厚遇がされているという情報は得たが、しかし、そんな伝聞だけで、議会で追及することはできない。証拠を押さえなければ・・・情報公開請求という手もあるが、それで出てきた公文書を眺めるだけでは、特に公務以外の活動の実態がつかめない。勤務中に組合活動をしている映像を押さえたい。弁護士さんや行政の専門家等と相談のうえ、マスコミに協力を求めることにした。

 当時、「ムーブ!」という朝日放送の夕方のテレビ番組があり、大阪市や京都市の不祥事も果敢に取り上げていた。この番組に問い合わせたところ、協力してもらえることになった。

 「ムーブ!」のKさんというディレクターも交え、どのように高槻市役所を追い詰めていくか検討を重ね、内部協力者が必要不可欠という結論に至る。けれども、どのように内部協力者を確保するか・・・

 私は、バスに乗り、終点まで行って、運転手と二人きりになったところで話しかけ、協力を求めるということを繰り返した。時には無下に断られ、時には「お前の狙いは何や?」と言われ、時にはファミレスで話をするまで行きながら最終的には断られ・・・しかしついに、テレビカメラの前で話してもいいという運転手を見つけることができた。

 それと並行して、職員らの出退勤の状況が把握できる「点呼記録表」と、各運転手がどのような運行ルートを辿るのかが記された「仕業票」も、情報公開請求をして入手。Kディレクターも独自のルートから労組の情報を手に入れ、勤務時間中にもかかわらず組合活動のために外出する労組幹部らの様子などの撮影にも成功した。弁護士さんから法的なアドバイスも受けた。内部協力者と私は、それぞれカメラの前でインタビューに答えた。

 そしていよいよ、九月一〇日にオンエアとなった。

◆「ムーブ!」で放送

 特集は刺激的なナレーションで始まった。

 「ムーブ!取材班が入手した内部文書『点呼記録表』。そこに見えてきた魔物。それは『幽霊運転手』。点呼記録表に記されたある運転手の名前。しかしこの人物は、高槻に、いや日本にもいるはずがない運転手だった。衝撃の内部告発!幽霊運転手の正体とは?そこに潜む怪しい企みとは?またもや噴出した公営交通の深い闇。高槻市バスがひた隠す、ヤミ勤務の実態が見えてきた。」

 「点呼記録表」は、バス運転士が出退勤する際に、バスの出庫・入庫の時間のほか、健康状態や飲酒、服装・携帯品をチェックし記入するもの。無論、職員本人が出勤してこなければ、チェックできるはずがない。

ところが、「点呼記録表」では出勤したと記録されているある職員が、労働組合の機関紙に、出勤日と同じ日に連合高槻の訪中団の一員として中国・常州市に行ったと、出張報告を寄稿していたのだ。

 大阪・高槻市と中国・常州市との距離は約一五〇〇キロ。中国出張は四日にわたっている。「点呼記録表」では、そのうち三日について勤務したことになっている。ドラえもんの「どこでもドア」でもない限り、不可能だ。つまり、「点呼記録表」と労組の機関紙の、どちらかに嘘が書かれているということになる。

 スタジオで、コメンテーターの宮崎哲弥氏は「この人はどこにいたんでしょう?ドッペルゲンガー(同じ人間が同時に複数の場所に姿を現す怪奇現象)というのがありますけどね」と嗤った。そして「そんなことはありえない」と続けた。

 実際にはどちらにいたのか・・・中国にいたのだ。あろうことか、公文書である「点呼記録表」のほうに、虚偽が記載されていたのである。

 放送前に、Kディレクターから「この事件の名前はどうしましょうか」と尋ねられた。私は「幽霊運転手事件というのはどうでしょうか」と答えた。高槻にいるはずのない市職員が、公文書上、バスを運転していたことになっていたからだ。

 では誰がバスを運転していたのか。現役の運転士である内部協力者が、カメラの前でそのからくりについて答えた。もちろん顔は映さず、音声は変えている。

 Kディレクター「『代走』という仕事をされたことはありますか?」

 内部協力者「あります。」

 Kディレクター「『代走』は誰から頼まれるんですか?」

 内部協力者「組合のほうから・・・」

 Kディレクター「労働組合から?」

 内部協力者「はい。」

 「代走」とは、労組幹部が、勤務日に組合活動を行う際に、非公式に別の職員に自分の代わりとしてバスを運転させることを指す、交通部内の隠語であった。これが「幽霊運転手」の正体なのである。

 点呼のときにはどうしていたのか。点呼をするのは交通部の運行管理担当職員だ。「代走」で実際にバスを運転する職員のことを、点呼の現場では「代走誰々」と呼んでいた。その点呼・出勤状況を決裁する管理職も、当然「代走」のことは承知している。「代走」という違法行為は、労組と当局との結託により、組織ぐるみでされていたのだ。

 さらにインタビューは続く。

 Kディレクター「『代走』はもちろんお金がもらえる仕事なんですね?」

 内部協力者「はい、もらえます。」

 Kディレクター「どのくらいもらえるんですか?」

 内部協力者「一万円ですね。」

 Kディレクター「それは一日走って?」

 内部協力者「一日走ってです。」

 Kディレクター「やってらっしゃる運転手さんとして、どういう感覚ですか?」

 内部協力者「アルバイト感覚ですよね。臨時収入としてお金をもらえるから・・・月収とは別のお金としてもらえますからね。」

 「代走」を引き受けた職員は、労組から金を受け取る。一方、「代走」してもらった側の労組幹部は、勤務していないにもかかわらず、交通部から、給料もボーナスも満額が支給されていた。仕事を休めば給料は減らされ、ボーナスも減額される。それを避けるために、労組幹部らは「代走」と称する違法行為をして、満額の給与を得ていたのだ。

 給与は、労働の対価として、働いた者に対して支給されるものだ。働いていないのに、勤務したと偽って給与を受け取れば、給与詐欺である。犯罪的な行為だ。そのことは、労働者の代弁者たる労働組合の幹部らが、一番よく分かっていたはずである。

 Kディレクターは果敢にバスに乗り込み、労組の最高幹部である四役(委員長・副委員長・書記長・書記次長)のうち三人にマイクを突き付け直撃。しかし、いずれも取材を拒否した。

 番組では私達の仲間の弁護士さんの見解も示された。いわく、点呼記録表は保存義務がある公文書であり、これに虚偽の記載をすれば、虚偽公文書作成罪に問われる可能性がある。また、勤務していない職員が給与を受け取っていたことについては、詐欺の要件が成立する可能性があると。

 スタジオのコメンテーターからは「代走中に事故を起こしたらどうなるのか」、「公文書の改ざんだ」、「ヤミ専従だ。職員の職務専念義務違反だ」といった声が上がった。

 「代走」について、交通部は、「今日的に時代にそぐわないので四月以降はやめた。労使協定に明文化されたものはなく、始まった経緯は分からない。組合から出された『代走願い』は破棄した。長年の労使慣行で行われてきたもので、やめるにあたっても、給料の返還請求も、職員の処分もしていない。」とムーブ!の取材に答えた。

 だが実際には、やめたという四月以降も「代走」を行っていたことが後に判明した。

 「代走願い」を破棄したと言うが、公務員が作成した文書だけでなく、職務上取得・受領した文書も公文書である。労組から出された「代走願い」は、市職員の公務に影響を及ぼしうるもの。これを高槻市役所が受け取った以上は、れっきとした公文書だ。これを破棄するのは違法行為である。証拠隠滅のためにしたとしか考えられない。

 しかし後に、さらに悪質な公文書の改ざん・証拠隠滅が明らかとなる。

 翌日の九月一一日には特集の第二弾、一三日には第三弾が放映された。

 キャスター「昨日、高槻市『幽霊運転手』問題を取り上げましたが、ムーブ!の放送を受けて、監督官庁である近畿運輸局が、高槻市交通部を呼び出して、点呼記録表に虚偽の記載をしていたこと、いわゆる『幽霊運転手』問題について説明を求めるという展開になったそうです。そしてムーブ!が求めていた高槻市へのインタビューも、本日、設定されました。事態は急展開を迎えているわけです。」

 近畿運輸局は、平成一九年一二月二一日付で「輸送施設の使用停止(三〇日車)」という行政処分を下した。この処分を高槻市役所は公表しなかったが。

 私を撮影したVTRも流れた。

 北岡「点呼表を分析して分かりましたね。まったく同じ組合幹部が、毎日決まったダイヤに乗っている。」

 キャスター「高槻市でも、『幽霊バス』が蔓延している。市議会議員が怒りの告発。京都市で大問題になった、『幽霊バス』改め『組合役員専用ダイヤ』。労働組合役員が、仕事をせずに、堂々と組合活動をするために仕組まれた、短い時間しかバスを運転しない超ラクチンダイヤだ。」

 北岡「(仕業表を示しながら)組合専用ダイヤってやつですけれども、これは他の運転手のものと比べると、非常に時間が短くなっています。(バスが)車庫(営業所)に入庫してから(運転士が退勤するまで)一時間半から二時間くらいあります。それだけ他のものと比べると、非常に楽なダイヤになっています。」

 労組幹部優遇ダイヤは四つ。労組の最高幹部である四役それぞれに、委員長ダイヤ、副委員長ダイヤ、書記長ダイヤ、書記次長ダイヤが固定的にあてがわれている。いずれも平日に設定されていて、四役は、月曜から金曜の午後、多少時間のずれはあるが、四人そろって労組の仕事ができるようになっていた。

 Kディレクターが停車中のバスに乗り込む。運転手は労組幹部だ。

 Kディレクター「朝日放送ですが、これは組合役員さんの専用のダイヤですか?」

 労組幹部「そう言われたら、そうですね。」

 Kディレクター「終わってから二時間くらい余裕があると思うんですが、その時間は何をしてらっしゃるんですか?」

 労組幹部「待機してますね。」

 Kディレクター「どこで待機してらっしゃるんですか?」

 労組幹部「車庫なり、西口の休憩所ですね。」

市バスの営業所でKディレクターが交通部の管理職に迫る。

 理事「日常的に、いろんな組合との交渉をですね、申し入れとか、それをやっておりますので、そういった交渉の場がですね、もちやすいという状況の中で、役員さんのダイヤについては設定している。」

総務課長「いつでも呼ばれたら乗務に行ける状態で、この営業所の建物の中で、待機しているということです。」

 果たして本当に待機なのか。

 八月、ムーブ!取材班のカメラは、大人しく待機していない労組幹部の姿を捉えていた。

 八月二四日、ある労組幹部は、待機のはずの時間に、バイクで営業所を抜け出し、高槻市役所本館地下一階の高槻市職員労働組合の事務所へ。

 八月二一日、別の労組幹部も、待機の時間だけでなく、その前の二往復のダイヤをもキャンセルし、兵庫県明石市で行われた労働組合の大会に参加した。

 労働組合の役員が、勤務時間中に、あたかも勤務をしているように偽装し、給与を得ながら、実際には組合活動をしていることを「ヤミ専従」という。無論、労組に対する利益供与であり違法だ。

 高槻市バスの労組幹部優遇ダイヤ後半の空き時間は、労組幹部らの行動からすれば、待機の時間などではないことは明らかだ。実態からすれば、「ヤミ専従時間」と呼ぶのが相応しい。

 バスのダイヤを組むのも、それをどの職員に担当させるか決めるのも、交通部当局だ。労働組合が決定できる事項ではない。この労組幹部優遇ダイヤによるヤミ専従も、「代走」同様、労使ぐるみ・組織ぐるみで行われていたのである。

 証拠映像を押さえているKディレクターは「組合役員さんが、本来待機すべき時間に、待機をしていらっしゃらない日があるんですが」と詰問した。

 総務課長は「おっしゃっている意味が、ちょっと分かりません」と苦し紛れに答えるばかり。

 理事「ちょっとまあ時間も考えて・・・」

 Kディレクター「時間はあるじゃないですか!」

 総務課長「これでちょっと失礼しましょうね。」

 Kディレクター「ちょっと待ってくださいよ!ちょっと待ってください!それは困りますね!そんなん、それは困りますよ!だって、お答えいただいてないんだもん!」

 理事と総務課長は、逃げるようにカメラの前から去って行った。

 交通部は労組幹部優遇ダイヤについて、「労使間協議をやりやすくすることと、待機要員が手薄な昼過ぎの時間を埋めるため、組合役員に待機してもらっている。こちらも長年の労使慣行でできたもので、明文化された労使協定はない。」とムーブ!の取材に答えた。

 その一方で、「待機者として最近出動したことはない」とも回答。

 交通部には、早番の時間帯に四人、遅番の時間帯に六人の、計一〇人が一日に待機している。労組幹部らは昼過ぎに待機しているという。しかし、バスの便数が多いのは朝夕のラッシュ時であり、昼間に待機者を増やしても無意味だ。

 待機とは、事故や渋滞に備えて営業所内にいることであるが、労組幹部らは、交通部当局の許可も取らずに、組合活動のため、自由に外出していた。やはり「ヤミ専従時間」というほかはない。

◆公文書の改ざん

 事態は思わぬ展開を見せる。新たな事実が判明した。

 キャスター「証拠書類が、改ざんされている。高槻市バス追及の発端となった書類『点呼記録表』。市バス運転手の勤務内容が記載されている。北岡議員の情報公開請求に、高槻市が出してきた公文書だ。」

 北岡「情報公開制度そのものをないがしろにしてしまう行為で、非常に悪質だと考えています。」

 運転手の職員の勤務状況を記した書類は、点呼記録表の他にもある。その一つが「勤務割出表」だ。これを営業所で運転手達が見て、自分が乗るダイヤを確認する。これをムーブ!が独自に入手した。

 労組幹部が代走を依頼したその日、勤務割出表には「代走」の二文字がある。しかし、同じ日の点呼記録表には何も書かれていない。つまり、労組幹部が運転したことになっている。いったいどちらが本当なのか。

 キャスター「ムーブ!への内部告発……もともと、点呼記録表にも、『代走誰々』と名前がちゃんと書いてありました。でも、それが鉛筆書きだったのをいいことに、公開請求をされた直後、交通部の幹部達が、『代走誰々』という文字を、消しゴムで消してしまったのです。」

 北岡「鉛筆書きで書くってことも、イザとなれば、消しゴムで消すことを前提にしているのではないか」

 Kディレクターが交通部の理事に詰め寄る。「内部情報では、鉛筆書きの『代走誰々』という文字を、一生懸命みんなで消していたということですが、本当に消されてないんですか?」

 森塚理事「・・・それはちょっと分からない。」

 Kディレクター「分からない?」

 森塚理事「そんなことはないと思うんですよ。」

 Kディレクター「そうですか?」

 Mディレクターは、交通部のトップ・山本管理者を直撃した。

 Mディレクター「存在自体はご存知でらっしゃったんですか、『代走』について?」

 山本管理者「全く知りません、私は。」

 Mディレクター「ご存知ではなかった?」

 山本管理者「はい。」

 Mディレクター「情報公開請求された書類に対して、消しゴムで消したのでは?」

 山本管理者「全くそんなんやっていません。」

 Mディレクター「そういう改ざんをしているという情報が入っているんですが?」

 山本管理者「全く、全くやってないです、それは。」

 Mディレクター「それは、言い切られますか?」

 山本管理者「言い切る。言い切ります!」

 Mディレクター「もし証拠が出てきた場合は、職責を賭けて?」

 山本管理者「そんな仮定のことには、答えないねえ。」

 当時「茶髪の弁護士」であった橋下徹大阪市長は、コメンテーターとしてスタジオで吠えた。

 橋下氏「消したって言ってますけど、消極的に記載したこと、消したということも虚偽なわけですから、虚偽公文書作成罪というれっきとした刑法犯で、思い出せば、社会保険庁の免除申請をちょこっと書き換えたところから、どんどん問題が大きくなったじゃないですか。同じことになりますよ。言い切っちゃって大丈夫ですか。こんな虚偽公文書作成罪なんていう刑法に触れるようなことをやっていながら、あそこまで言い切ってしまえば、それこそ組織の解体になってしまいますよ。」

 キャスター「これは、高槻市役所の体質の問題でしょうね。」

 勝谷誠彦氏「最初は、組合がひどいねという話だったじゃないですか。けれども、それを容認しているどころか、手を貸しているということが分かりましたね。まさに談合なんですよ、労使双方の。それで市民の税金をしゃぶりものにしているということですね。」

 大谷昭宏氏「高槻市の市民の方で、例えば、先ほど出てきた、がんばってらっしゃる市会議員、あるいは支持者の方達。警察よりも、直接検察庁に告発しちゃえばいいんですよ。」

 この大谷さんの言葉に従い、検察庁に告発したのだが・・・それについては後述する。

 勝谷氏「あのね、知ってるんですよ。『やってませんね?』って訊かれた時に、管理者は、『やってません!』って断言してるでしょ。普通は断言せず、『今から調べさせます』って答えるはずなんです。彼も脅されてるのかもしれない。断言しなきゃいけない立場に、彼はいるのかもしれない。だけど、今見てるだろうけど、市民の目の前で、役所としての説明を果たさないのであれば、大谷さんが言うように、お巡りさんに行ってもらうよ。」

 勝谷さんのこの言葉も鋭かった。労使癒着の場面には、この「幽霊運転手」事件以外でも後に出くわすことになる。

平成19年9月18日の朝日放送「NEWSゆう」より

◆高槻市役所が公文書改ざんを認める

 九月一八日には特集の第四弾が放送された。

 キャスター「『幽霊運転手』問題に端を発した高槻市バス問題ですが、ムーブ!の取材の前に逃げ回っていた高槻市が、とうとう、衝撃の事実を認めました。それは、情報公開で公開した文書がありましたけれども、それを改ざんしてしまったことです。市政の信頼性を揺るがす悪質な行為です。ムーブ!のスクープでご覧いただきます。」

 記者会見する山本管理者。「私自身、それだったら、それも消していいだろうと。消すことによって、公文書偽造になるということには、私は、ないだろうと。」

 数日前、あれだけ強く「全くそんなんやっていません。」「言い切る。言い切ります!」とカメラの前で答えていた市バスのトップ・山本管理者。しかし、会見では、自分が「消しなさい」と指示したと認めた。彼は、自分が指示をして公文書の改ざんをさせていたのに、「やっていない」と言い切っていたのだ。

 内部情報のとおり、私が公文書公開請求で開示を求めた「点呼記録表」に、鉛筆書きで記載されていた「代走誰々」の文字を、交通部運輸課の職員が数人がかりで消したという。

 さらに、別の改ざんも明らかに。

 高槻市交通部では、「代走」のほか、組合活動を理由に、労組幹部らの職務専念義務を有給で免除する、いわゆる「有給職免」を行っていた。これについて決裁していたのは総務課長だ。「代走」とは違って内部手続きとしては正式なものであったが、実は、これも法律的に見れば違法なものだったのだ。

 「有給職免」とは、有給で職員の職務専念義務を免除することを指す略語である。自治体によっては、「職免」ではなく「職専免」と称することもある。

 地方公務員法三〇条は「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」と定めている。勤務時間中は公僕として職務に専念しなければならない。これが職務専念義務である。

 条例によって、研修や健康診断を受ける場合などは、例外的に有給で免除されるが、労働組合活動に関しては、「正当な労使交渉」と呼ばれるもの以外、有給で免除することはできない。

 ところが、交通部では、労組の上部団体の行事に参加する場合などについて、有給で免除していた。

 私は交通部の総務課関係の書類も情報公開請求をして入手し、調べていた。その中に、過去にさかのぼって「有給職免」を取り消しているものがあった。労組四役の四人が、黒部ダムで有名な富山県の黒部へ一泊二日で勉強会に行ったとされているものだった。しかし、どうして黒部まで行く必要があったのか。なぜ高槻市で勉強会ができなかったのか。どう考えても観光旅行である。

 これが露見するのをおそれた労組幹部らが交通部当局に働きかけ、その意向を汲んだ総務課長が、三か月も前に決裁済みの文書を改ざんして、過去に「有給職免」を取り消したかのように装ったのだ。

 「有給職免」を取り消してどうしたのか。すでに給与も払われているので、有給休暇としたという。しかし、三か月前のものを有給休暇にするなど、一般社会の常識ではあり得ない。そのことは、勤め人の経験がある方ならお分かりだろう。特に公金から給与を支払う行政がこんなことをしてはいけない。

 この記者会見の少し前、Kディレクターは、当時高槻市長であった奥本市長に向かい合っていた。

 Kディレクター「交通部からはどんな形の説明があったのでしょうか?」

 奥本市長「それは、消したことは認めています。ただ、問題は、それだけじゃなくて、メモ書きとか、注意書きをした部分も含めて、消したということの報告は受けています。」

 Kディレクター「その公文書公開請求が、踏みにじられてしまったということは、かなり重大なことではないのかなと思うんですが?」

 奥本市長「『改ざん』というより・・・消したということは事実ですけれどね、これをこちらへ書き換えたとか、置き換えたとかというものではないわけですよね。」

 これを見てスタジオではコメンテーターが厳しい指摘をした。

 キャスター「これ、書き換えたとすると、有印公文書偽造ということになるのでしょうか?」

 勝谷氏「先ほど市長に訊いた時点では、この“職務免除の取消し”については知らなかったのかもしれないね。市長は『消したのは改ざんに当たらない』と言っただろ?『書き換えたならともかく』とあの市長言うたやろ?これは書いたんやんか!これはどない説明すんねん!ああいうふうに言った以上、市長はもう言い逃れできないよ。しかも、この書類、横に課長の判が押したあんねん。有印公文書偽造・同行使!」

 キャスター「公文書を請求しました、鉛筆書きのところを消しました、あるいは書き加えて判子を押しましたっていうことで公開するのであれば、何だってできるじゃないですか!」

・・・不祥事の責任は誰がどうとるのか。

 山本管理者「これは私が責任者ですから、私が厳しく自分自身反省すると同時に、やはり責任というのも、十分に感じております。また、職員についても、そういった分で、調査結果を見なければ分かりませんけれども、調査結果が判明した段階で、まあ、できるだけ早く、厳正に対応したいなと、このように考えています。」

 この放送の直前、Kディレクターから電話があった。「北岡さん、交通部がとうとう認めましたよ。北岡さんのコメントもほしいんですが。」

 私は、「改ざんを認めたことは評価するが、最初の報道から一週間もの間、ウソにウソを重ねたことには悪質性を感じる。刑事告発と住民監査請求の準備を進めたい」というふうに答えた。

 住民監査請求というのは、地方自治法に定められた手続きで、地方自治体の行為に違法性・不当性があり、かつ公金に損害が発生、あるいは今後発生する可能性がある場合、責任者に対する賠償や返還の請求、公金の差止めなどの勧告を監査委員に求めることができる制度だ。裁判所に住民訴訟を起こすには、この住民監査請求を経ていることが条件となる。

 コメントした当時は、漠然とした意識で住民監査請求という言葉を口にしたが、この事件をきっかけに、多くの住民監査請求・住民訴訟を行うことになった。

◆刑事告発

 ムーブ!で元読売新聞記者の大谷昭宏さんが、「警察よりも、直接検察庁に告発しちゃえばいいんですよ」とおっしゃったこともあり、私は弁護士さんに代理人になってもらって、大阪地方検察庁特捜部に刑事告発した。罪名は「虚偽有印公文書作成罪(刑法第一五六条及び同法第一五五条第一項)」である。

 弁護士さんにご一緒していただき、何度も地検特捜部に足を運んだ。担当は、地検でもエースと呼ばれる主任検事であった。特捜部では力を入れて捜査・起訴してくれるものと期待した。

 しかし、結果は不起訴だった。

 何故不起訴なのかと担当の検事さんに問うと、「ちょこっと公文書に手を加えたくらいで刑務所に放り込んだらかわいそうでしょ?」といった答えだった。検察審査会に不起訴処分は不当だと申し立てもしたが駄目だった。

 その検事さんは、その後、別の事件で証拠のフロッピーディスクにちょこっと手を加え、検察庁を追われることとなった。刑事裁判では懲役一年六か月の実刑判決。刑務所へ入った。事の重大さや被害者の心情からすれば、当然だろう。

 ただ、この検事さんは、熱意があり、腰が低く、気さくな感じで、性格は良さそうに見えた。立派に更生してほしいと願っている。

◆調査委員会と職員の処分

 ムーブ!放送後の九月二六日と二七日は、高槻市議会の本会議があった。

 二六日の本会議冒頭、奥本市長から「議員各位並びに市民の皆様に大変ご心配をおかけし、深くおわびを申し上げます」と一連の報道についての報告がされた。

 代走については、「従来から慣行的に行われてきたものであり、勤務の本来あるべき姿ではないところから、本年四月から廃止してきているところであります。これまでの代走によりまして不当利得となった給与等については、早期に返還を求めてまいりたい」と、実質的に違法性を認めた。

 労組幹部優遇ダイヤについては、「公共輸送機関としては欠便は許されませんので、職員が急に体調を崩し勤務につけない状態等に備えて、昼間の一定時間を予備者として待機勤務を割り当てたところであります。また、組合役員の勤務を他の職員と同様のローテーションに組み入れず、早朝の勤務に固定しているのは、市営バスの運営上、当局として組合に対し、合理化に向けての協議や申し入れを行ったり、協議相手である組合役員との話し合いの場、時間がスムーズに設定できるよう、勤務を固定しているところであります。・・・予備勤務の時間における職場離脱につきましては、その実態を調査し、早期に給与等の返還を求めてまいりたい」として、ヤミ専従時間であることは認めず、あくまで待機時間であったとし、職場である営業所を離れた時間についてのみ給与の返還をさせるとした。

 ただし、職場離脱をいつ何時間行ったのかは、労組幹部らの自己申告だけを基に算定された。後に設置された調査委員会によれば、それは平成一八~一九年度の二年間で合計わずか約二七時間。一七年度以前は特定できなかったという。こちらの計算では、「ヤミ専従時間」は一七年度で約一五〇〇時間、一八年度で約八〇〇時間である(平成一九年度は約半年で四五〇時間)。それに比べれば、二七時間というのは少なすぎる。

 一方で、「しかしながら、今日的な状況を踏まえまして、組合役員の勤務につきましては、去る九月二一日から他の職員と同様の勤務に変更したところであります。また、早朝勤務に固定している組合役員の勤務につきましては、早急に作業を行い、一一月一日をめどに、他の職員と同様のローテーションに組み入れてまいります」と、労組四役以外の職員にも、労組幹部優遇ダイヤに就かせるとした。しかし、先に述べたように、これがもし待機だとしても無駄な勤務である。

 労組幹部優遇ダイヤは「当局として組合に対し、合理化に向けての協議や申し入れを行ったり」するために設けていたというが、毎日のように労使で協議などしていたのか。これを労組幹部以外にも回すということは、やはりそんな時間は必要がなかったということである。なのに何故残すのか。労組幹部優遇ダイヤを温存しようとしているとしか見えない。

 黒部への観光旅行に「有給職免」を認め、これを約三か月もさかのぼって改ざんした件については、「去る八月一六日に、組合から五月二三日から二四日の職務専念義務の免除申請を取り下げ、有給休暇にかえてほしい旨、申し入れがあり、市営バス当局として申し入れがあった当日に、職務専念義務の免除の施行日である五月一五日にさかのぼり許可を取り消し、有給休暇扱いにいたしたところでございます。その際、公文書には、組合より申し入れがあり、取り消した旨、付記したところであります。この処理については、さかのぼった日付ではなく、組合から申し入れがあった日時も記載すべきでありましたが、その点に関しまして、不適切な事務処理があったと考えている」と、違法性は認めず、あくまでも手続き上の不備だと問題を矮小化した。

 しかし、この件については、後に私が住民訴訟を提起したところ、大阪地裁も高裁も違法性を認定し、当時の管理者と四役に対し、二日分の給与の賠償・返還を命じる判決を下した。奥本市長は、有給職免を三か月後に取り消して、有給休暇にしたというが、有給休暇は事前承認が原則。風邪をひいて会社を休んだ翌日に取得するといった場合は認められるが、三か月もさかのぼって取得させるなどできないことは、民間では常識。この有給休暇へのすり替えのインチキを、裁判所も違法と断罪したということだ。

 私が情報公開請求した点呼記録表から「代走誰々」の文字を消去する改ざんを行ったことについては、「代走は今日まで慣習として行われてきたものであり、制度として正式に認めていないことから、鉛筆書きであり、他の余分なメモ書きを消去するとき、一緒に消してしまったものであります。公文書並びに情報公開制度への認識が非常に甘かったと深く反省しているところでございます。情報公開制度は市民の知る権利を保障する大切な制度であることから、研修等を通じまして、その趣旨、目的を再度職員に徹底させ、適正に事務を進めてまいりたい」と。

 山本管理者は、情報公開を担当する総務部長も歴任しているから、情報公開制度に精通しているはずである。市長は職員の認識不足だったというが、ごまかしに過ぎない。真実は、「代走」という違法行為の証拠を隠滅するため、故意に公文書を改ざんしたのだ。でなければ「証拠書類が改ざんされている」などと内部告発されなかっただろうし、山本管理者も「やってません。言い切ります」と嘘を吐かず、正直に消去を指示したと答えたはずである。

 引用が長くなったが、このような、いわゆる「役所答弁」で、問題をすり替え、ごまかし、矮小化するのが高槻市役所の常套手段。あれだけ連日報道されても、私が議会で追及しても、のらりくらりとかわす。二七日の議会の一般質問で、私は事件について追及したが、このような不誠実な答弁がされただけであった。

 市長は「今後、早急に全容の解明と対応方について作業を進める考えでありますが、私といたしましては、作業の透明性、客観的な判断をより高めるため、外部から学識を有する者を中心として調査委員会を一〇月初めに設置し、早急に事実関係の調査と今後の対応策について結論を得たい」と続けた。給与等の返還と関係者の処分については、調査委員会からの報告を待って行うとも述べた。

 調査委員会は一〇月五日に設置され、一一月二六日に最終報告書を出した。

 「代走」については労組幹部らに過去三年間分、労組幹部優遇ダイヤについては労組幹部らが自己申告した職場離脱分のみ返還を求め、組合活動を理由とする有給職免に関しては違法性を認めず、点呼記録表の改ざんや三か月もさかのぼって有給職免を取り消し有給休暇としたことについては、不適切としながらも違法としなかった。

 「代走」の返金分をなぜ過去三年間分としたかというと、五年分の資料はあるが、一部の資料が三年分しかなく、三年分返す者と五年分返す者との間で不公平が生じるから少ないほうに合わせたのだという。証拠があるならその分の全部を返すべきではないのか。滅茶苦茶な理屈だ。給与詐欺を働いた職員に配慮したとしか考えられない。

 議会での市長報告とこの調査委員会の最終報告とは、ほとんど同じだ。第三者で構成したとはされていたが、結論ありきの調査委員会ではなかったのか。

 調査委員会は、「代走」と職場離脱の分として、計約九〇四万円を不当利得として労組幹部らに返還させるべきとした。不十分ではあるが、我々がこの問題を調査し追及しなければ取り戻せなかった公金だ。

 しかし、労組幹部らの懐は痛まなかった。労働組合が「犠牲者救援金」で、返還金をすべて肩代わりしたからだ。

 我々が入手した労組の機関紙には・・・

 「☆組合運動犠牲者救援規則の運用について

 ※中央委員さんからの提案

 今回の問題については、組合の機関決定を経て取り組んできた内容であり、執行部に対しての給与返還等については、組合運動犠牲者救援規則に基づき救援を行うよう提案し、中央委員会での決定をお願いするものです。

≪承認≫ 」

・・・と記載されていた。「代走」や職場離脱の行為は、労組として決定したものだから、組員の組合費で積み立ててきた基金から違法行為の代償を支払うというのだ。

 一〇月二三日のムーブ!では、この問題が追及された。労組の委員長が「代走」で、労組の上部団体である連合高槻主催のゴルフコンペに参加していたことも発覚。労組の四役が、黒部での勉強会について、組合員には東京での都市交(これも労組の上部団体)の会議だったと嘘をついていたことも明らかに。

 労働組合の組合員の皆さんは、幹部にかなりコケにされているように感じるのだが、なぜ組合費で積み立てた犠牲者救援金からの支給を承認したのだろうか。

 労組幹部らは、違法行為をしても、このように組合の金で守られるのである。

 一一月三〇日、調査委員会の報告を受け、関係した職員の処分が公表された。

 交通部トップ・山本管理者は減給一〇分の三(四か月)、理事は減給一〇分の一(二か月)、課長ら三名は減給一〇分の一(一か月)、あとは戒告や訓告、文書厳重注意といった軽い処分であった。事件の重さに比べれば甘すぎる。

 私はてっきり、山本管理者は懲戒免職だと思っていた。しかし、山本管理者は在職し続け、今では副市長である。副市長の選任には議会の同意が必要で、私は反対したが、他の議員の多数の同意を得て副市長となった。証拠隠滅のために公文書の改ざんを指示した人物を副市長に押し上げる市長と議会。良識を疑わざるをえない。

◆住民監査請求

 調査委員会が設置される一日前の一〇月四日、私は、「代走」、「労組幹部優遇ダイヤ」、「有給職免」について、高槻市監査委員に対し、住民監査請求を行った。

 監査委員は、地方自治体の財務や事業を監査する執行機関。行政の一部ではあるが、法的には、市長からは独立しているとされている。人格が高潔で、行政運営に見識をもつ者から選任されると、法はしている。

 高槻市の場合、定数は四人。うち二人は議員から選任される。議員にとって、監査委員は、議長、副議長に次ぐ役職。この三つのポストは「議会三役」と一般に総称されている。この役職に就けば、少なからぬ報酬(高槻市の場合月額六万二千円)が議員報酬のほかに支給される。「議会三役」のポストは、実質的には議会の会派間で当選回数などを考慮し決定されるようだ。必然的にたいてい市長与党の議員が就くことになる。私は毎年五月の役選(役員選出)議会で「監査委員になって、とことん高槻市役所を監査したい」と監査委員を希望するが、私のような一匹狼がいくら望んでもなれそうな雰囲気ではない。

 残る二人はこれまで市職員OBと公認会計士から選ばれてきた。市職員OBのほうは四人の監査委員を代表する「代表監査委員」になるのが慣例のよう。当時の代表監査委員は、前職が自動車運送事業管理者。「代走」等一連の違法行為を見逃していた当事者だった。

 総務省は、平成一八年八月三一日付で、各地方公共団体に対し、「当該地方公共団体の常勤の職員であった者の監査委員への選任は特にその必要がある場合以外には行わないこととし、地方公共団体外部の人材を登用することを原則とするなど、住民の理解と支持が得られる監査委員制度の運用に努めること」と要請していた。つまり市職員OBを監査委員にすべきではないと指導しているわけだ。

 しかし、平成一九年七月、市長はこの総務省の指導を無視するかのように、管理者であった市職員OBを監査委員にしたいとして議案を上程。議会は多数同意で彼を監査委員にした。歴代の代表監査委員が市職員OBであることからすると、高槻市職員にとって、監査委員が出世ルートの一つになっていると考えられる。

 私は、住民監査請求で、個別外部監査契約に基づく監査を求めた。監査委員は、自らと利害関係があることについては監査できないので、通常の住民監査であっても、代表監査委員は除斥されたと考えられるが、他の三人の監査委員に任せるのも心許なかったからだ。

監査委員らは、「本件請求については、より客観性を確保するため、外部監査による監査が相当であると判断」し、「個別外部監査契約に基づく監査によることに決定」したと通知してきた。個別外部監査になったことに私は喜んだ。

 けれども、残念ながら、個別外部監査人による監査結果も、調査委員会の報告と、結論的には何も変わらなかった。

 これまで多くの住民監査請求をしてきたが、監査委員たちは高槻市役所の言い分をほとんど鵜呑みにしたような監査結果しか出さない。そこでやむなく、住民訴訟を起こすことが多かった。

 この幽霊運転手事件についても、平成二〇年一月二五日に住民訴訟を提訴。二五年四月二四日に大阪地裁で勝訴。同年一一月五日には大阪高裁で実質勝訴した。しかし、高槻市役所はここでも卑怯な手を……これを説明するためには、別の住民訴訟の結末について先に記したほうがよいので、後述する。

 事件を取り上げたのが平成一九年九月だから、高裁判決まで約六年間を要したことになる。裁判は時間と労力がかかるうえに、違法性が顕著なものしか賠償等を命じてくれない。常識的に考えておかしなことでも、行政に有利な判決が出ることが多いのだ。行政や議会がまともなら、こんな苦労はせずに済むのだが。

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第一章 高槻市バス「幽霊運転手」事件” に対して2件のコメントがあります。

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